タグと意思決定 - (2)タグとモデル化

プレーヤーはすべてリラクタント(CCC・CCD・CDD・DDD)で、デモグラフィックな場で相手プレーヤーと対戦するDRゲームである(参照:「シミュレーションの基本的考え方」)。これに、相手をタグによって区別するtaggingをプレーヤーの行動パターンに反映する。その方法として選んだのが、現時点の起点(Cooperation Indicator)の移動である。
どういうことかというと、対戦相手のタグは、知覚できるが、最初の対戦では、タグは単なるシグナルにすぎず、普通に基本行動パターンに従って協調・非協調の手を取るのだが、異なるのは、前回の対戦の結果をタグとともに記憶しておいて、次回に同じタグの相手に出会うと、現時点の起点(CI)が、どこにあろうとも対戦相手のタグに従って、その前回の結果の地点に自動的に戻ることだ。対戦相手が協調的かどうか判断できなくともタグは識別できるので、タグと対戦の起点がリンクしていく過程として、プレーヤーをタグによって区別する。
例えば、白い帽子をかぶっている相手と対戦して、その結果が協調的だったならその結果を、次に白い帽子をかぶっている相手が現れた時にそれを反映させて、自分はその相手に対して協調的な手を取る。プレーヤーは、親から白い帽子に対応するCIを引き継ぐ。親、つまり第一世代の場合は、基本的行動パターンから出発するが、第二世代は、白い帽子をかぶっているということとそれとリンクした協調的であるという意味をセットで受け継ぐことになる。

つまり、対戦が増えるにつれて相手のタグといわば対自分協調率のようなものが現れてくる、それはあたかも今まで隠れていて知らなかったルールのように、その後の自分の行為に反映される。自分の行動パターンは変わらないが対戦の起点が相手のタグによって変わる。協調的・非協調的だったという記憶(データ)が次回に反映されて、たとえて言うなら、最初「白」は単なるシグナルに過ぎなかったのだが、「白」との対戦結果に[協調・協調]という結果が多ければ、「白」=協調のようにシグナルと意味がリンクするようになる。すなわち、白い帽子、赤い帽子など色の識別は、初期には意味を持たないが、対戦を重ねる中で色が意味を帯びてくる。

本論文では、プレーヤーは、対戦相手のタグによってとる手を変える。タグが全くない場合と、タグによって細かく相手を識別する場合とを比較すると、タグを用いる方が協調の増加がみられることが分かった。ただし、実際の対戦データに基づいて細かく修正をする。私たちの日常的世界の中では、本シミュレーションの枠組みのように実際の対戦結果をもとにして細かく相手への行為を変えていくということはなく、いったんシグナルと意味が結びつくと固定化されがちなのが知られている。タグによって知らない相手を区別することは、初期には有用かもしれないが、経過とともに自身が経験した結果を検証しながら、より正確な対応をすることが協調的な社会へ道を開く方法だと考える。
タグは、全く無色な世界に、一本の線を引くようなもので、その線を引くことで見えてくる世界がある。あたかもそれが真であるように見えるが、タグは本来一本の線を引いたにすぎない。それが自分の心の想念・好悪などと結びつくによって、より真実味を帯びて見え、一般的な概念・想念を具体的な個人に当てはめてとらえてしまう。偏見・先入観などの固定観念には、注意深く検証が必要で、実際にその個人とどうであるかの判断が重要である。